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林檎カブトムシ

埼玉県民は海岸線の夢を見るか

2020/04/11 19:14:35

アマゾンプライムで映画『翔んで埼玉』を観た。これは魔夜峰央の漫画が元になっており、原作の方は発売当時たまたま本屋で見かけ、表紙とコピーで衝動買いした。途中まで描いたところで作者が満足しただか飽きただかで自主的に打ち切っており、尻切れトンボよりも中途半端な終わり方をしているが、しかしまさに怪作といって良い。それから数年を経て実写映画化されると聞いたときは有体に言って正気を疑ったものだが、蓋を開けてみれば映画の方も原作に劣らぬ怪作ぶりであった。映画になってようやく完結したと言っても過言ではない。

何と言っても描写が徹底的にバカなのが良い。魔夜峰央の世界をかなりの程度実写映像で再現しており、ところどころ微妙に安っぽいのでさえ魔夜峰央ギャグの一環という気がして、すべて許せてしまうから凄い。正座して真剣に鑑賞しても良いが、酒の肴に誰かとワイワイ言いながら観る方が楽しめるだろう。

この作品は、一見すると埼玉や千葉といった東京を取り巻く地域を「イナカ」として嘲り、東京と地方の対立を描く映画のように見えるが、それは表層というより一面に過ぎない。地方は地方同士どちらが上かでいがみ合い、さらに埼玉県内でも町同士で同じように争う。郷土愛という得体の知れないものをこれでもかという程に笑い飛ばしているのだ。

そうした上で、東京都民の持つある種の優越感を、それはもう滅茶苦茶に皮肉っている。それはどこに住んでいる人間にも等しくナイフのように突き刺さり、溢れる血のごとく何かを思い出させるほどに鋭い。多層的で痛烈なアイロニー、毒が含まれているからこそ甘美なそれが、本作の醍醐味である。醍醐味というか、ほぼそれだけで構成されているので、なるほどこれはぼくが面白がるはずだと改めて思う。

ひとつだけ難点を挙げれば、関東地方についてある程度の土地勘が無いと没頭できないというのがある。まあこれは作品の特性上仕方が無い。関東地方のことにあまり詳しくなくても楽しめるように作られているとは思うが、関東以外の地域にお住まいでより楽しみたい方は、事前に地図を眺めて、都県や埼玉県内主要都市の位置関係だけでも頭に入れておくと良いかもしれない。